2021年4月13日、国家市場監督管理総局は、中国共産党中央サイバーセキュリティ・情報化委員会弁公室及び国家税務総局とともに、インターネットプラットフォーム企業行政指導会を開催しました。
同指導会にはアリババ、テンセント、京東、百度、滴滴、美団、バイトダンス等等、プラットフォーム経済を代表する企業34社が参加しました。
原文名: 爱奇艺、百度、贝壳找房、滴滴、当当网、多点、京东、快手、美团、每日优鲜、奇虎360、去哪儿网、搜狗、微店、58同城、新浪微博、字节跳动、哔哩哔哩、叮咚买菜、饿了么、国美、盒马鲜生、拼多多、携程、小红书、阅文、苏宁易购、阿里、贝贝网、蘑菇街、网易(严选)、云集、唯品会、腾讯
同会議は、アリババ事件の警告作用を十分に発揮することを要求し、主要なプラットフォーム企業に「畏敬の念を知り、ルールを守り」、期限内に全面的に問題を改善し、プラットフォーム経済新秩序を確立することを明確に求めたとのことです。
同会議は、厳しく懲らしめなければならないものとして、二者択一(二選一)の強制、市場支配的地位の濫用、(スタートアップ企業の)芽を摘み取るM&A(原文:掐尖并购)、現金補助(原文:烧钱、結果として不当廉売)による社区団体購入市場の奪取、ビッグデータを用いた新旧ユーザー間の価格差別(原文:大数据杀熟)、情報漏洩及び税関係の違法行為等の問題を挙げ、その中でも(アリババ事件で問題となった)二者択一の強制がとりわけ突出しており、プラットフォーム経済分野の資本による好き放題かつ無秩序な拡張を突出して反映するもので、市場競争秩序を公然と踏みにじり破壊するものである。二者択一の強制はイノベーション発展を抑制し、プラットフォーム内事業者と消費者の利益に損害を与え、危害は極めて大きく、断固として根治しなければならない、と指摘しています。
二者択一の強制及びその他の突出問題に対し、同会議は、プラットフォーム企業が正確な方向を把握し、責任意識を強化し、国家利益優先を堅持し、法規に従った運営を堅持し、社会責任の履行を堅持し、「5つの厳格な防止」と「5つの確保」を行う必要があると明確に指摘しました。
1.資本の無秩序な拡張を厳格に防止し、経済社会安全を確保する。
2.独占の秩序喪失を厳格に防止し、市場公平競争を確保する。
3.技術による封殺を厳しく防止し、業界のイノベーション発展を確保する。
4.ルール・アルゴリズムの濫用を厳しく防止し、各当事者の合法権益を確保する。
5.システム閉鎖を厳しく防止し、エコシステムの開放・共有を確保する。
各プラットフォーム企業は税収法令法規、政策制度に照らして、税関係問題を全面的に厳密調査を実施、自主的に調査是正しなければならない、とも指摘しています。
同会議は、各プラットフォーム企業が1か月内に全面的に自主検査を行い、1つ1つ徹底的に改善し、社会に向け「法令遵守事業約束」を公開し、社会監督を受けることを要求したとのことです。市場監督管理部門はプラットフォーム改善状況に対し追跡検査を組織し、改善期限後、プラットフォーム企業が二者択一の強制など違法行為を行ったことを発見したら、一律に厳重に処分するとのことです。
同会議は「政策のボトムラインは超えてはならず、法律のレッドラインは触れてはならない」ことを強調しました。プラットフォーム企業の違法行為に対する規律・統治の強化は、決して国家によるプラットフォーム経済を支持し奨励する態度の変更を意味せず、「2つのいささかも揺るがせにしない」原則を堅持し、プラットフォーム経済発展規律を尊重し、今一歩プラットフォーム経済の重要作用を発揮させ、公平競争、イノベーション発展、開放共有、安全調和のプラットフォーム経済新秩序を確立し、プラットフォーム企業がさらに活力を漲らせ、オンライン消費がさらに手軽かつ高品質となることを実現し、プラットフォーム経済をさらに秩序だって繫栄させると指摘しています。
本会議に市場総局に加え、 中央サイバーセキュリティ・情報化委員会弁公室(網信弁)が参加していることは要注目です。同委員会・同弁公室は「資本による世論操縦を防止」することを主張した党中央宣伝部と直結した組織です(2021年2月18日付日本経済新聞経済教室参照)。2021年1月7日、中国消費者協会がネット上のAI等使用による消費者権益侵害に警鐘を鳴らした座談会にも同弁公室より担当官が出席しており、かつ3月12日制定・22日発布の「ネットアプリ必要個人情報範囲規定」でも筆頭に名前が挙がっています。この間、同弁公室が中心となり、党支配の維持のため、プラットフォーム企業によるメディア支配、AI・アルゴリズム等の技術的手段の使用による消費者選択の歪曲、個人情報の不必要な収集利用に歯止めをかけようと政策形成やルール整備を進めてきたと考えられます。
上記で紹介した行政指導会の記事は、今まで私が見てきた市場総局の文書や会議(例えば、同じプラットフォーム企業に対する2019年11月5日指導会及び2020年7月の座談会参照)とはまるで言葉遣いが違っており、激しい非難の言葉や政治色・共産党色の強いスローガンが列挙されており大変驚きましたが、本会議も上記の共産党組織が主導していると考えると大変合点がいきます。
本会議での「5つの厳格な防止」と「5つの確保」が一体何を意味しているのかが非常に重要です。
このうち「2.独占の秩序喪失を厳格に防止し、市場公平競争を確保する。」と「3.技術による封殺を厳しく防止し、業界のイノベーション発展を確保する。」は、独占禁止法違反処分を受けたアリババに対する行政指導書(2021年4月10日)でも要求している独禁法遵守確保等に対応しているので、比較的理解しやすいです。また、「 5.システム閉鎖を厳しく防止し、エコシステムの開放・共有を確保する。 」に対応する内容も、アリババ行政指導書に見えます。
「14. 法に従ってプラットフォーム内のデータ及び決済、アプリ等のリソースポートの開放度を強化し、ユーザーの選択権を十分尊重し、正当な理由なくして取引を拒絶してはならず、PF間相互接続・相互操作を促進する。」
これはTモール等アリババのエコシステムではアリペイしか決済で使えず、テンセントのエコシステムではウィーチャットしか使えないといった、相互に閉鎖的なシステムを開放度の高い、ユーザーの自由選択が可能なシステムに変革しようという非常に競争促進的かつユーザーフレンドリーな要請と評価できます。
「4.ルール・アルゴリズムの濫用を厳しく防止し、各当事者の合法権益を確保する。」についても、アリババ行政指導書に対応する下記の内容が盛り込まれています。
「4. PF内部のエコシステム統治を強化し、サービス合意、PF運営、資源管理、トラフィック分配等取引ルールを絶えず改善し、検索・配列等のアルゴリズムを客観的かつ中立に設定、データ資源を公平公正に使用し、PF統治ルールの公開性と透明性を向上し、個人情報及びプライバシーを法に従って保護する。」
この内容は、純粋に消費者やプラットフォーム内事業者(出店者等)の権利保護を狙っているように見えますが、プラットフォーム企業による世論や消費者行動の把握・コントロールを困難にするという意味で、党支配の維持にも貢献する指導内容だと考えられます。
最後に残った「 1.資本の無秩序な拡張を厳格に防止し、経済社会安全を確保する。 」がやや意味不明です。アリババに対するメディア資本売却が命ぜられるとのウォールストリートジャーナルの観測記事を受け、アリババ処分と同時に、これが自主的改善計画のような形で事実上、命ぜられるのではとの見立てをしていましたが、アリババ行政指導書では一見して、これに対応する内容が見当たりませんでした(4月10日投稿)。ただ、今回の指導内容の1は、或いはメディア資本の売却を含意しているのかもしれません。
やはりアリババ行政指導書を受けた改善計画(4月30日までに提出)と今回の指導を受けた改善策(5月13日までに提出・公表)に具体的にどのような措置が盛り込まれるのか要注目です。
行政指導会の紹介記事の最後の方に、「プラットフォーム企業の違法行為に対する規律・統治の強化は、決して国家によるプラットフォーム経済を支持し奨励する態度の変更を意味せず、『2つのいささかも揺るがせにしない』原則を堅持し、プラットフォーム経済発展規律を尊重」云々のくだりは、ルールを守ってもらうだけで、今後も、プラットフォーム経済を支持奨励する、民営企業の所有権をないがしろにはしないというメッセージです(この「2つのいささかも揺るがせしない」原則(=公有制・非公有制のいずれも同等に保護する)は、2020年12月26日の人民銀行のアント面談に関する記事でも出てきたものですし、2021年の3月の政府活動報告でも、「独占禁止を強化し、資本の無秩序な拡張を防止する」と明記された段落の上の方でしっかり言及されていました)。アリババの処分後のウェイボーでの手紙でも「発展の歴史における新たな出発点」とあり、当局との折り合いがついて、今後も事業を継続発展させていくという前向きなメッセージが込められていましたが、今回の当局側の表現も、アリババのメッセージに呼応する内容といえます。これで国有化とか接収といった憶測は、ほぼ否定されたと見てよいでしょう。
アリババ行政指導書によりアリババが多岐にわたる改善計画を提出し、社会監督の対象となることが判明しましたが、同様の改善計画を、例えば、現在独禁法調査の対象となっているテンセントにも求めるだろうと予測していました。しかし、今回の行政指導により、中国当局が、個別企業に関する調査を1つ1つ積み重ね、処分に当たって行政指導をするという悠長なアプローチでなく、アリババ事件での超高額制裁金の威嚇の下、業界全体に指導することで、一気にプラットフォーム経済秩序を作り替えてしまうことを考えていることが分りました。完全に予想のななめ大分上に行かれた印象です。