中国、CPTPP加入正式申請

2021年9月16日、中国が「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」への加入を正式に申請しました(中国商務部ウェブサイト)。

9月5日投稿で、この問題に関し独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「中国のCPTPP参加意思表明の背景に関する考察」(21-P-016、共著)公表についてお知らせしましたが、同ペーパー、結果的に絶妙なタイミングでの公表となりました(なお、9月11日に一部訂正した改訂版をアップしました)。

さて、日本を含め既存の締約国がどういう対応をするのか、米国がこれを受けどのような反応を示すのか大いに注目です。

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国際経済連携推進センター「中国におけるデジタルプラットフォーム事業者の規制強化 ―その背景、特徴と見通し―」公表

9月1日、国際経済連携推進センターウェブサイト上に「中国におけるデジタルプラットフォーム事業者の規制強化 ―その背景、特徴と見通し―」Web正式版:2021年9月7日追加)が公表されました。本ブログで取り上げてきた中国におけるデジタル・プラットフォーム事業者に対する規制強化の背景、日米欧において同時進行している競争法規制と比較した特徴を論じた上で、アリババ、テンセント等に対する独禁法執行と7月以降の滴滴(Didi)に対するネットワーク安全審査系の規制とを対比することで、各種規制強化を単に「中国共産党による巨大IT企業に対する統制強化」と一括りに論ずることに対する警鐘を鳴らしています。

最後の警鐘は、既に7月27日の本ブログ投稿でも鳴らしたのですが、それをもう少し体系的に論じたものと捉えてもらえるとありがたいです。根拠法や規制当局によって、起業意欲やイノベーションに対する配慮等の観点で、規制姿勢が大きく異なるというのが本論稿のポイントです。

本論稿執筆の最終段階で、8月31日投稿で紹介した「共同富裕」促進政策関係の動向に触れたので、やや独禁法執行強化と同政策の相互関係についての分析は中途半端に終わっています。その辺り、本ブログの方で補完してもらえればと思います。

なお、国際経済連携推進センター(旧貿易研修センター、2019年改称)では、私の論稿以外にも「コロナショック下の世界と日本:グレート・リセットの時代」というシリーズで多くの興味深い論稿を掲載しています。どうかご参照ください。

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RIETIポリシーディスカッションペーパー「中国のCPTPP参加意思表明の背景に関する考察」公表

渡邉真理子先生(学習院大学)、加茂具樹先生(慶應義塾大学)及び川瀬剛志先生(上智大学)と共著で経済産業研究所(RIETI)ボリシーディスカッションペーパー「中国のCPTPP参加意思表明の背景に関する考察」(21-P-016)(以下「本PDP」という。)を公表しました。

本PDPは、中国のCPTPP参加表明に関係する政治文書、中国の国際情勢や国際ルールメイキングに対する認識及び「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」の法的規律に関する諸分析を組み合わせ、中国によるCPTPP参加意思表明の背景に、既存の国際秩序に対する「不安全感」に基づき、「制度性話語権(制度に埋め込まれたディスコースパワー)」、つまりは国際ルールメイキングへの影響力を強化しようとの狙いがあると論じています。より具体的に中国は、2020 年に成立した「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」に加えて、CPTPP に参加することを、「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)」 の構築という最終目標に向けて、制度性話語権を確保するための重要な布石と考えている可能性が高いと指摘しています。

他方で、本PDPは、中国のCPTPP加入には国有企業章、電子商取引章及び労働章を中心に大きな課題があり、それら課題を克服するため中国国内で取り組みが進んでいる分野もあるものの、安全保障例外を含む例外規定等の活用を楽観的に期待していると考えられる部分もあると指摘し、仮に中国が正式に加入申請をしてきた場合に、日本を含む現締約国が取るべき対応策を提案しています。

本ブログでは、中国独禁法を中心に中国におけるデジタル・プラットフォーム関係の法規制の最新動向を主に紹介していますが、国際経済法関係の最近の仕事として紹介させて頂きました。

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中央全面深化改革委員会第21次会議、共同富裕促進政策の下に独禁法執行強化を位置づけ

2021年8月30日、中国共産党中央全面深化改革委員会第21次会議(習近平総書記主催)が開催され、「独占禁止強化と公平競争政策実施のより深い推進に関する意見」(投稿時点で未公表の模様)等を審議通過しました。

その際、「共同富裕促進等の戦略的高所から出発して、公平競争を形成する市場環境を促進し、各種市場主体、とりわけ中小企業のために、広大な発展空間を創造し、さらに消費者権益を保護する」との方針が示されました。

「共同富裕」促進政策は、直近では8月17日開催の中央財経委員会第10回会議(やはり習近平総書記主催)で提起されていました(「习近平主持召开中央财经委员会第十次会议强调 在高质量发展中促进共同富裕 统筹做好重大金融风险防范化解工作 李克强汪洋王沪宁韩正出席」新华网(2021年8月17日))。具体的には、1次分配としての要素市場での分配、2次分配としての税制・社会保障等の所得再分配、さらに3次分配としての寄付の調整力を強化し、中所得者層の比重を高める等としています。本政策は、これまでの(鄧小平の提起した)「先富論」に基づき拡大した所得格差を是正する基本政策として、今後、中国における政策運営全般に影響を与えると考えられます。

「共同富裕」の初出は、2017年10月18日開催の中国共産党第19全国代表大会(十九大)における習近平総書記の報告ですが、同報告は「市場独占」といった用語に触れているものの、「共同富裕」の概念とそれらが明示的に関連付けられることはありませんでした。同じく2020年10月29日開催の中国共産党第19次中央委員会第5次全体会議(いわゆる「五中全会」)が通過した「中共中央の国民経済・社会発展に関する第14次5か年規画と2035年長期目標に関する提案」は、「共同富裕」促進政策をより具体的な形で示しており、かつ他の箇所で「独占禁止の強化」政策にも触れていますが、これらが明示的に関連付けられることはありませんでした。

2021年8月17日の中央財経委員会第10次会議では、国家発展改革委員会、財政部及び人的資源・社会保障部が関連の報告を行っているものの、独禁法を所管する国家市場監督管理総局の参加は報道されていませんでした。さらに、独禁法強化に関する2020年末来のスローガンである「資本の無秩序な拡張防止」やそれに類する概念への言及も見られませんでした。以上から、「共同富裕」促進政策が今次の独禁法執行強化の直接の背景であったと理解することはできないと考えています。

しかしながら、8月17日会議における「共同富裕」促進政策には、「1次分配(要素市場による分配)」、「さらに多くの人に富裕となる機会を創造し、誰もが参加する発展環境を形成する」、「効率と公平性の関係を処理する」、「中小企業の発展を支持する」等、今後、独禁法等の法規制強化をさらに促進し、或いは今後の法執行方針に大きな影響を与えうる要素が多々含まれていました。よって、「共同富裕」促進政策が具体的に実行に移される段階で、独禁法等執行にさらなる追い風が吹くとともに、中小企業の競争機会を奪う行為類型等に法執行の重点が置かれるといった影響は十分に想定されると考えていました(独禁法以外にも電子商取引法35条によるプラットフォーム事業者のプラットフォーム内事業者(例 出品者)に対する不当な取引条件設定等の規制が強化される可能性が考えられます)(2021年9月5日追記 この分析は本投稿の翌日の公表となりましたが、9月1日掲載の「中国におけるデジタルプラットフォーム事業者の規制強化 ―その背景、特徴と見通し―」(国際経済連携推進センター)で展開していました)。

昨日8月30日の中央全面深化改革委員会第21次会議は「共同富裕」促進政策の下に独禁法執行強化等を初めて明確に位置付けるものであり、かつ中小企業保護も明確にうたっており、上記の想定が裏付けられた結果となりました。すでに相当に強化された独禁法執行に、さらにどの程度強い追い風が、どの方向に吹くのか注意深く見ていきたいと思います。

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日本経済新聞掲載のThe Economist論説について

7月27日付日本経済新聞朝刊7頁の「中国独禁法、革新損なうリスク(The Economist)」について一言。

7月25日付本ブログ投稿で中国独禁法の問題とネットワーク安全審査・データ安全の問題は分けて検討すべきと指摘しましたが、上記論説は両者を完全に混同して、あたかも滴滴のデータ安全の問題が中国独禁法の適用範囲の一部であるかのようにミスリーディングな紹介をしています。

米国と比べ調査のスピードが段違いである等、頷ける指摘もあるのですが、上記の混同以外にも、冷静な分析というよりも政治的なアジテーションかと思えるような表現が散見されます。

現在進行中の中国独禁法の規制強化がイノベーションに一定の影響を与えることは間違いないですが、7月25日付投稿で分析したように、中国の独禁当局もイノベーションへの悪影響をできるだけ回避するようバランスを取ろうと努力していることが窺えるので、その点を無視した分析は客観性を欠くと思います。

なお、Economistの論説の原文に当たってみましたが、上記の印象は原文でもさほども変わらず、翻訳がそれを助長しているわけではないようです。むしろ、あえて本論説をわざわざ和訳し紙面に掲載した判断こそ問われるべきかと。

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テンセント・音楽配信関係の処分(続)

昨日速報したテンセントによる中国音楽集団買収未届出実施(2016年)に対する処分については、いくつか重大な疑問点があります。以下、Q&A風に解説してみます。

Q1 今回の決定は、4月10日のアリババ処分(約3000億円)、7月10日のテンセント傘下のゲーム配信プラットフォーム虎牙・闘魚結合禁止決定に続く、デジタルプラットフォーム事業者に対する独禁法に基づく厳しい処分だが、さらに7月初以来の滴滴に対する締め付けも加味すると、共産党が一党独裁を維持するために、大きな力をつけてきたIT企業に対する統制を強めていると理解してよいのか?

A1 2月18日付日本経済新聞27頁の経済教室で解説したように、今回の独禁法を含むIT企業に対する規制強化の直接のきっかけとなったのは、2020年4月の中国版ツイッター・ウェイボによるアリババ幹部の不倫スキャンダルもみ消し事件だと考えています(アリババはウェイボの筆頭株主)(同スキャンダルを含めた詳しい紹介は高口康太「巨大IT企業アリババを襲った不倫スキャンダル」『文芸春秋』2021年8月号120₋127頁参照)。これにより中国共産党中央宣伝部等、従来IT企業を情報収集や情報統制にとって有用な協力相手と考えてきた勢力が、IT企業がメディアを支配し、むしろ共産党の専権事項である世論工作の領域にまで踏み込んできたと懸念を深め(2020年11月、宣伝部副部長が「資本による世論操縦のリスクを断固として防止する」と発言)、これまでの共産党・政府内部の政治力学が大きく変わり、金融当局などIT企業に対する規制を強めるべきだとの意見が通りやすくなり、2020年12月の中央政治局会議中央経済工作会議での「独占禁止の強化と資本の無秩序な拡張防止」の重点任務化、そして現在の独禁法を含む規制強化につながっていると考えています。

ただ、きっかけはそうした共産党独裁体制の維持強化であったとしても、個々の法運用において、そうした政治的な意図が具体的に反映されているかどうかは、別途分析する必要があります。

第1に、アリババ決定は、60%超のシェアを有し市場支配的地位にある事業者が、競争者と取引することを禁じていた(二者択一強制)ことを問題としましたが、これは各国の競争法・独禁法でも十分に違法になる行為で、特に政治的な歪みは感じられません。

第2に、テンセントによる傘下ゲームライブ配信プラットフォームの統合は、統合後70%
超の市場シェアを有する企業が形成され、参入障壁も高いことが認定されており、これを禁止する決定に特に大きな違和感はありません。

第3に、今回のテンセントによる過去の企業結合に対する処分も、統合後80%超の市場シェアを獲得し、参入障壁を高めたと認定されており、これに対し仮に過去の案件であっても、何らかの介入をすることは独禁法の論理で十分に正当化できます。

第4に、テンセントによる検索エンジン大手・捜狗の完全子会社化は、もともと単独支配権を得ていた会社の完全子会社化なので特に競争法上大きな問題は生じないはずでしたが、巨大プラットフォーム事業者がさらに世論工作も可能となる検索エンジンを完全に支配するのは、共産党支配を揺るがす事態なので禁止するといった決定が下ることも懸念されました。しかし、本件は結局7月12日に無条件承認で終わっています。

以上の第1~3の処分は、特に政治的に歪められた無理筋の決定とは考えられないだけでなく、第4の決定でも政治的な意図から出た無理筋な決定は下されませんでした。いずれも独禁法の論理で十分に説得力のある決定と考えることができます。

他方、滴滴に対する締め付けは、いまだ正式な決定が下されていないので詳細な分析ができません。しかし、現在進行中のネットワーク安全審査は独禁法とは別のネットワーク安全法とその実施規定に基づく審査ですし、聞こえてくる主な懸念は、海外上場による重要データの漏洩のようですので、別途の分析が必要となります。

よって、これらすべての規制動向を、単に「共産党による統制強化」とひとくくりに理解することはミスリーディングであると考えます。

Q2 今回の処分は、2016年に実施した企業結合が競争制限的であったとの認定に基づくが、当局は制裁金50万元の支払いの他、音楽著作権の独占的ライセンス契約の解除等を命じただけで、2016年の企業結合の解消(具体的には中国音楽集団の株式売却)は命ぜられていない。中国独禁法上、そうした株式売却等は命ずることができないのか?

A2 中国独禁法第48条は「事業者が本法の規定に違反して企業結合を実施する場合、国務院独占禁止法執行機構は企業結合の実施の停止、期限を定めた株式又は資産の処分、期限を定めた営業の譲渡及びその他企業結合前の状態に回復するために必要な措置を命じなければならず、50万元以下の制裁金を課すことができる。」と規定してます。よって、本件においても、過去の企業結合が競争制限的であったと認定したのであれば、企業結合前の状態に回復するため株式売却などの原状回復命令を下すことができます。

しかし、本件決定は本件結合により音楽著作権資源関係で参入障壁が高まるだけでなく、広大なユーザーベースと同利用データの活用によりユーザーの転換コストが上昇するという観点でも参入障壁が高まると指摘しているにもかかわらず、前者の音楽著作権ライセンスに関し独占契約を解除する等の行動的問題解消措置を命ずるにとどめ、後者の広大なユーザーベースの土台となっている企業結合そのものを解消する構造的問題解消措置には踏み込んでいません。

本決定は (網易音楽と推測される)主要競争者が力をつけてきたことや(バイトダンスと推測される)ショートビデオ事業者が広大なユーザーベースを土台に、著作権資源を獲得できれば競争者になりうるという事実認定をかませることで、 構造的問題解消措置まで必要なく、行動的問題解消措置で十分との結論を導いているように見えます。

この点は(7月24日の研究会でも問題となった)イノベーションと法規制のバランスの問題に関係していると思われます。プラットフォーム事業者の分割は流石にやりすぎであり、それをやってしまうと起業家やイノベーションに対する悪いシグナルを送ることになってしまい、大きな委縮効果が発生しかねないと市場総局も懸念した可能性が十分にあります。そのため、微妙な匙加減で命令内容を調整する結果となったとの理解も可能です(なお、2021年1月20日にアリペイ、ウィーチャットペイ等のスマホ決済事業者の分割提案も含む中国人民銀行の規定案が公表されましたが、同規定は未制定です)。

A1に戻れば、こうしたイノベーションに対する一定の配慮が見られる決定内容を見れば、やはり単純に「共産党の統制強化」で整理することが妥当でないことが、より一層明らかになると思います。

Q3 そもそもテンセントの音楽配信権独占の問題については市場総局が2019年1月に調査を開始し、2020年1月に同調査が停止されている。本決定で認定されている主要な事実は2017年までの事実であり、2019~2020年段階でも(或いはもっと遡って本件企業結合実施段階の2016年やその直後の2017年に)今回と同様の処分を下すことは可能だったのではないか?なぜこの段階でこうした処分が下ったのか?

A3 これについては、2019年から2020年1月段階では、A1で解説した政治力学がいまだ変化していなかった (スキャンダルもみ消し事件は2020年4月)からだ、と暫定的に回答したいと思います。こうした理解が可能であれば、A1の仮説が本件処理によって更に補強されたということもできますが、これについては現段階では確定的に回答できる素材が揃っていません。

Q4 今回は2016年の未届出企業結合実施に対する処分という形をとっているが、そもそもテンセントの音楽著作権の独占的ライセンス契約の締結それ自体を市場支配的地位の濫用(第17条)と認定して、それらの禁止・解除を命ずることが可能だったのではないか?なぜそのような処理を行わなかったのか?

A4 ご質問のような処理は実際に可能であったと考えられます。それにもかかわらず未届出実施として処分した、その適用規定選択の理由は謎です。一点だけ指摘すれば、市場支配的地位の濫用と認定した場合、テンセントの2020年度売上高の1~10%の制裁金を課する必要が出てきます(第45条に基づき、テンセントによる確約提出を受け、調査を停止し、制裁金を回避するという手法は可能ですが、現下の状況でこのような処理をすれば、なぜテンセントだけ処分が甘いのかといった疑問を容易に惹起するので、現実的に選択肢にならなかった可能性が高いです)。

テンセントの売上高はアリババのそれに匹敵する金額になるでしょうから、仮に同じ4%(違法行為の性質は排他条件付取引でほぼ同様、違法期間はアリババが2015~2019年、テンセントが2016~2020年でほぼ同等、当局による調査への協力姿勢もほぼ同等に協力的)で計算しても、100億元を下らない金額になりえます。

当局としては、A2で触れたイノベーションに対する委縮効果も考慮に入れ、(行政指導会で他社に法令遵守を迫るのに威嚇効果抜群の)100億元クラスの制裁金はアリババだけで十分、2件目はむしろ余計と考えた可能性が十分あり得ます。この理解でも、再びA1に戻れば、単純な「共産党による統制強化」と理解することがミスリーディングであることが、さらに鮮明になります。

これ以外に、やはり今回の規制強化はアリババがメインターゲットであり、テンセントはかなりお目こぼししてもらっているという理解もありえますが、虎牙・闘魚統合は明確に禁止されただけでなく、今回の処分でもテンセントの音楽配信ビジネスに多大な影響が及ぶことから、その理解には一定の留保をしたいと思います。

以上、4つの観点からQ&A風に解説してみました。ご参考になればと思います。

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国家市場監督管理総局、テンセントが2016年に実施した企業結合が競争制限的であったと認定し、音楽著作権独占的ライセンス契約の解除等を命令

国家市場監督管理総局は、7月24日、テンセントが2016年7月に実施した企業結合(中国音楽集団の61.64%の株式取得)が違法に実施され、かつ競争制限効果を有していたと認定し、30日以内の音楽著作権独占的ライセンス契約の解除等を命ずるとともに、50万元(約850万円)の制裁金を課す決定を下しました(簡単な紹介PDF版決定)。

実は本日午後にある研究会で中国独禁法によるデジタルプラットフォーム規制に関する報告をしたのですが、その時点ではこの情報を把握しておらず、こういう調査が進行中だが、まだ決定は出ていないと紹介してしまいました(参加者の皆さん、スライド64、テンセントの④音楽配信市場での独占配信問題関係です。お詫びして補足します)。

本決定は当該企業結合が届出基準に該当することを確認し、中国独禁法第21条に違反して実施されたと認定しています。その上で、関連市場として中国インターネット音楽配信プラットフォーム市場を画定し、2016年7月実施時点で、テンセントと中国音楽集団のアクティブユーザー数で見た市場シェアはそれぞれ33.96%、49.07%、ユーザー月間使用時間で見た市場シェアはそれぞれ45.77%、39.65%で、合計市場シェアは80%を超えていたし、音楽著作権で測定しても合計70%を超えていた、両者の傘下企業(QQ音楽と酷狗音楽)は密接な競争者であったところ、当該結合で競争が弱まり、かつ著作権の独占的ライセンスや豊富な楽曲、大きなユーザーベースと十分な使用データでユーザーの転換コストが上昇するなど参入障壁が高まったなどとして、本企業結合によりテンセントは関連市場に対し競争排除又は制限効果をもたらしたと認定しています(7月25日、「密接な競争者」や「参入障壁」等を追記) 。

結論として、本決定は中国独禁法第48条(「事業者が本法の規定に違反して企業結合を実施する場合、国務院独占禁止法執行機構は企業結合の実施の停止、期限を定めた株式又は資産の処分、期限を定めた営業の譲渡及びその他企業結合前の状態に回復するために必要な措置を命じなければならず、50万元以下の制裁金を課すことができる。)に基づき、以下の4点を命じています。

1)原状回復措置:上流の著作権者と独占的著作権ライセンス契約の締結等をしてはならず、すでに締結しているものは、本決定発布から30日以内に解除しなければならない等。

2)制裁金50万元の支払い(上限額)

3)法に従った企業結合届出等

4)法令遵守メカニズム確立等

本決定は、第48条に基づいて、過去に未届出実施された企業結合に競争排除又は制限効果があったと認定した初めての決定であると同時に、同条に基づいて初めて原状回復措置を命じた決定です。

テンセント関連では本ブログ既報の虎牙・闘魚統合禁止(7月10日)に続く2つ目の厳しい処分となりました。株式売却など実施済みの企業結合の解消は命ぜられなかったものの、将来のライセンス契約だけでなく、既存のライセンス契約も独占的なものでなくなることによって、競争者が同市場に積極的に参入すること等が予想されるため、テンセントの同市場でのビジネスに大きな影響が出ると予測されます。

次ははたして美団でしょうか、それとも滴滴でしょうか。デジタルプラットフォーム事業者に対する中国独禁法規制、ここしばらく留まる気配がありません。

(7月25日追記)上記で触れた7月24日の研究会では、4月10日アリババ処分決定では独禁法遵守メカニズムの確立が命ぜられておらず、行政指導書にそれが盛り込まれていることを紹介したところ、質疑応答の中で、日本の独禁法の例えば第7条(排除措置命令)が「違反する行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。」と規定するで、独禁法遵守メカニズムの確立を命令主文に書ける一方で、中国独禁法第47条では「違反行為の停止」しか命ずることができないため、こうした処理になるのではというご意見を頂き、確かにそうだなと納得しました。

ところが今回の決定では決定の主文に「4)法令遵守メカニズムの確立」が盛り込まれています。これは上記で和訳した第48条が「その他企業結合前の状態に回復するために必要な措置」と幅広に規定しているためであると考えることができます。

7月24日研究会の上記質疑応答の中で、中国では「違反行為の停止命令」としか書いていない規定が多い印象と述べましたが、すぐ隣に「その他・・・必要な措置」と規定しているものがあったことが抜けておりました。お詫び・訂正も兼ねて、この点追記します。

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経産省のデジタルカルテル、パーソナライズド・プライシング等に関する報告書

川島が知見提供した経済産業省経済産業政策局競争環境整備室「令和2年度産業経済研究委託事業(経済産業政策・第四次産業革命関係調査事業費)(近年の競争環境・競争政策等の動向に関する調査)報告書」(委託先:株式会社三菱総合研究所)(2021)が公表されましたのでお知らせです。

川島は、このうち中国独禁法関係の記述に関し知見を提供しています。ご参考まで。

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滴滴のIPOに至る顛末と審査結果の予想(Bloomberg7月22日付記事)

Bloombergの”China Weighs Unprecedented Penalty for Didi After U.S. IPO“と題する記事(2021年7月22日 18:44 JST Updated on 2021年7月23日 5:22 JST)が、現在進行中の滴滴に対するネットワーク安全審査について、事情に詳しい複数の関係者の情報として、中国当局が「非常に厳しい、おそらく前例のない処罰」を下すことを検討していると報じています。選択肢には、制裁金、一定の事業の停止、国有投資家の導入以外にも米国上場停止強制も含まれているとのことです。前2者についてはネットワーク安全法でも根拠規定(例えば37条(個人情報及び重要データの域内保存義務)違反に対する66条)がありますが、後2者については根拠規定が何なのか不明です。記事中でも、一番最後の上場停止強制がどう実施されるのか不明とされています。

なお、182億元の制裁金が課されたアリババよりも厳しい処分が予想されるともありますが、今回主たる違反がネットワーク安全法違反だとするとそうした高額の制裁金はかかりません(66条によれば5万~50万元)。仮に独禁法違反が発覚したとしても、アリババほどの売上高があるとは考えられませんので、その金額には達しないのではと予想します。上記の「厳しさ」は制裁金の金額というより、営業停止や上場廃止といった質的な厳しさのことだと理解した方がよさそうです。いずれにしても7月19日投稿でのアリババにとっては「新しい起点の日」が来ても、滴滴にはそれがこないかもしれないとの観測は、上記の予想と整合的です。

同記事は、滴滴のIPOに至る決定過程を、ウォールストリートジャーナルの7月6日記事7月9日記事に負けず劣らず、まるで見てきたかのように詳しく描写しています。両方の記事に共通する点として、(米国内での株主による損害賠償を意識してか)滴滴が中国当局の警告を軽視したという論調で書かれている印象です。

中国当局は、明示的にIPOを禁止しなかったが、IPO前にデータセキュリティを確保するよう指示し、その指示を滴滴が理解したと感じたという下りについては、WSJ7月9日記事でも同様な描写がありました。本記事で出色なのは、インターネット情報弁公室が党トップ幹部から「なぜ滴滴のIPOを止めなかったのか」と詰問され、現在、同弁公室自身が厳しい目で見られていることを紹介している点です。

上記経緯は、本ブログ7月11日投稿における、ネットワーク安全審査弁法改正草案は「十分に時間をかけたのではなく、(滴滴の当局指導無視を受け?)慌てて作ったものではないかという印象が濃厚」との分析と非常に整合的です。(  )内を(党上層部から詰問され)にしていたらドンピシャリでした。

さらに同記事は「習政権は(独禁法規制も含め)巨大IT企業の力を統制しつつも、経済成長のエンジンである当該重要セクターに深刻なダメージを与えないよう絶妙なバランスを取ってきた」と評価する一方で、滴滴の審査について「北京はインターネットセクターに対し、サイバーセキュリティとデータ安全が政府の最優先事項であり、それらがリスクにさらされている場合は個々の会社の利益は犠牲となりうことを理解させてようとしている」とのアナリストの見解を紹介しています。

一連の独禁法規制やアント指導において、各当局がルールを守らせる一方でイノベーションには期待するメッセージを送ってきていることは、本ブログでも何度か指摘してきました(例えば、2020年12月28日投稿2021年4月14日投稿)。他方、今回の滴滴のデータセキュリティの問題については、そうしたバランスに配慮しておらず、最大限厳しく臨むという姿勢が明確に見られます。7月21日発売の『財界』8月4日号に掲載された記事でも、両者を「単に中国共産党の支配の強化と見ては状況を見誤る」とし、独禁法規制は長期的にはイノベーションに寄与する一方で、データ安全に基づく上場規制はイノベーションへの悪影響が大きいと、両者に対し異なる評価をしました。さらにインタヴューでは「中国共産党における政策決定はどちらが優先順位が上かはっきりとした結論が出やすい」といったコメントもしたのですが、残念ながらこの部分は字数の関係でカットされました。

今回の記事内容は本ブログでの一連の分析及び上記『財界』でのコメントとも非常に整合的なものでした。

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滴滴に対しインターネット情報弁公室、公安部、国家安全部、国家税務総局、市場総局等7部門が立入調査

7月16日、ネットワーク安全審査弁公室の責任者が、インターネット情報弁公室が公安部、国家安全部、自然資源部、交通運輸部、国家税務総局、国家市場監督管理総局(以下「市場総局」という。)と共同して、滴滴出行科技有限公司に進駐して、ネットワーク安全審査を実施する旨表明したことが明らかとなっています。

ネットワーク安全審査弁公室の責任者が「ネットワーク安全審査を実施する」旨明らかにしたという事実や公安部や国家安全部が含まれている構成から、今回の立入検査が単なる個人情報保護に関する違法行為の確認作業ではなく、国家安全、データ安全の問題に基づくものと理解することができます。

日本の各種報道では、昨年12月24日のアリババ本社への立入調査と同様、「立入調査」と紹介しています。浙江省市場監督管理局の責任者も当時の様子を「進駐」と表現していることから、今回も立入調査ではあると思いますが、アリババの時は4日で終わったのに対し、今回は7部門が出張ってくるわけですし、それ以上も居座ることになるのではと予想します(当日訂正 アリババの立入調査が1日で終了としていたのを訂正)。

また、アリババの時は市場総局単独の立入調査でしたが、今回は公安部、国家安全部等だけでなく、税務総局も含まれています。今回、絶対何かアゲてやるという中国当局の意気込みというか本気度が垣間見れる布陣です。

滴滴はまさに党・国家の逆鱗に触れてしまったということなのでしょう。アリババは182億元(約3000億円)の制裁金を課されたまさにその当日に、ウェイボで「発展の歴史における新たな起点の日」とうそぶきましたが、滴滴には「新しい起点の日」は訪れないかもしれない・・・と思わせるほど大きなニュースでした(当日訂正 アリババウェイボでの表現を訂正、それを受け滴滴の「 」も修正)。

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