ハードコアカルテル事件での確約受入れ

2017年3月、国家工商行政管理総局が公表した決定によれば、内蒙古オルドス市の液化石油ガス3事業者による経営統合を通じた実質的な価格カルテル事件で、内蒙古自治区工商行政管理局が事業者から提出された約束を受理し、調査を中止し、かつ約束が実際に守られたとして調査を終了したとのことです(竞争执法公告2017年8号 鄂尔多斯市三亚液化石油气有限公司等三家公司涉嫌垄断经营行为终止调查决定。2017年3月28日公表。但し、調査中止は2016年6月28日決定、調査終了は2016年12月14日決定)。中国独禁法45条に基づく処理となります。

この事件を見て、おや?と思いました。というのも、2016年2年、発展改革委委員会価格検査監督・独占禁止局が公表した「独占禁止案件事業者約束指針」(意見募集稿)(原文は《反垄断案件经营者承诺指南》(征求意见稿)公开征求意见)第2条第1項第2文は、「商品価格を固定し又は変更し、商品の生産又は販売数量を制限し、販売市場又は原材料調達市場を分割する水平的独占合意案件に対しては、法執行機構は事業者の提出する約束(TPP協定整備法で日本独禁法に導入された「確約」に相当)を受入れ、調査を中止してはならない。」と規定していたからです。

ハードコアカルテルに対して確約手続を適用しないのは、EUで確立しているだけでなく、日本のTPP協定整備法で日本独禁法に導入された確約手続(但し、TPP協定発効日から施行)(同解説, p.4)に関しても、公正取引委員会が価格カルテルや入札談合等のハードコアカルテルについて確約による処理を認めない方針を明らかにしています。よって、上記の指針案も諸外国の例に沿うものでした。ところが、上記の内蒙古の事件では実質的な価格カルテルに対し約束受入れに基づいて調査中止・終了を決定しているので、おや?と思った次第です。

このズレについては、いくつかの解釈が可能です。

第1に、上記指針案はいまだ案が公表されたのみで、制定版ではありません。よって、ハードコアカルテル事件では約束を受け入れないという方針が固まったわけでなく、上記調査中止・終了決定に特に問題はないということなります。なお、上記指針案は、発展改革委が公表しているのでわかりにくいですが、独占禁止委員会業務計画に従って起草されており、(知財濫用指針案同様)最終的に同委員会名義で独禁法執行当局に共通の指針としての制定が予定されていると考えられます。

第2に、上記の内蒙古の事案は、3事業者Y1~Y3が特定地区における業務を特定個人A(決定では関連責任者と位置づけられています。)に請け負わせて(原文では「承包」)、結果として独占事業者となった当該Aが価格を引き上げた事件で、独占合意というより市場支配的地位の濫用としての性格が強い、よって、ハードコアカルテルとは分類されなかったので、上記指針案の方針に明確に反する決定が行われた訳でない、との解釈も可能です。確かに、同決定は、最終的に行為の性質決定を行っておらず、独占合意であるとは明示されていません。さらに、本件ではガスとガスタンクの抱き合わせ販売も問題となっていたので、この点からもむしろ市場支配的地位の濫用事件としての色彩が強まります。

しかし、Aの価格引き上げはY1~Y3との相談の後に行われたとの説明もあり(4者一堂に会しての相談なのか、A-Y1といった個別の相談が3回あったののかは明記されていませんが、契約が3社のパートナーシップ契約なので、おそらく4者一堂に会しての相談だと思われます)、Aの設定した価格は、本来Y1~Y3が個別に設定すべき価格であったと考えると、本件は実質的にY1~Y3による価格カルテルと同視しうるのではないかと思います。決定の当事者もY1~Y3となっていることによっても、この理解が補強されます。

後者の理解が妥当だとすると、内蒙古の工商行政管理総局は、独占禁止委員会名義で制定予定の指針案が示した方針を無視したことになるわけで、或いは法執行当局内部に上記の方針に対する異論があることを示唆しているのかもしれません。

同指針案も意見募集締切から早1年以上が経っていますので、例によって、いろいろ内部で調整が難航しているのかもしれない、そんな事情をうかがわせる事案として取り上げてみました。

ところで、本件のように性質決定が難しい事件は、中国だけでなく日本でも起こり得る訳で、仮に2016年2月に署名済みTPPが発効し(或いは今、話題のTPP11が、例えば暫定的にも発効し)、日本でも確約手続が施行された場合に、ハードコアカルテルだとして公取委が確約を受け付けないと断言するのは必ずしも容易ではないということも、本件は示唆しているように思います(これはまさに中国の先行例に日本が学ぶ形)。

確約手続については、公取委がその運用に関するガイドライン(確約手続に関するガイドライン(仮称))を作成する予定のようですが、上記のような性質決定が難しいケースについての考え方も指針に含める必要があるように思います。

カテゴリー: 独占禁止法, EU, TPP, 日本, 中国 | タグ: , , , , , , | コメントをどうぞ

元発展改革委独占禁止局長、上海市副市長に

少し情報古いですが、発展改革委価格監督検査・独占禁止局の前局長の許昆林氏(2009年12月から2015年2月まで。但し、同局への改組は2011年)が、2017年3月31日、上海市副市長に任命されました。上海市政府のニュースでも時々、顔が映ります。

クアルコム事件等、独禁法調査で辣腕を振るった方で、外国企業には大分恐れられていた人です。直近は発展改革委副秘書長に昇進し、鉄鋼産業過剰生産能力の問題について記者会見を開いたりしていました。知り合いとこの人、独禁局長の後、出世してますね、と注目していた人でした。

私が行くところ(独禁法、鉄鋼過剰生産能力、上海)に必ず現れるので、妙な縁を感じます・・・

カテゴリー: 独占禁止法, 国有企業, 中国 | タグ: , , , | コメントをどうぞ

知的財産権濫用指針(意見募集稿)公表

2017年3月23日、商務部独占禁止局ウェブサイトにて、「知的財産権濫用に関する独占禁止指針(意見募集稿)」が公表されております(意見提出期限は4月21日)。3月15日の国際貿易投資研究所・JETROのセミナーでは今年中には制定されるとのかなり大雑把な予測をしましたが、この流れでは法施行9周年の8月1日より制定版指針施行もありうるかもしれません。

セミナーでも触れましたが、本指針案は、国務院独占禁止委員会名義での統合された案となっています(商務部独占禁止局が同委員会の事務局なので、同局が公表しています)。

商務部も企業結合審査の側面について原案を提出していたようですが、私の知る限り未公表でした。今回の案で初めて知的財産権に関する企業結合審査の指針案が明らかとなりました(第4章第19条~第24条)。

本ブログやセミナーでも触れた2015年12月末の発展改革委草案2016年2月の工商総局草案の間のズレのうち、調整を難航させているのではと紹介したセーフハーバーについては、水平合意で合計20%以下のシェア、それ以外の合意でいずれも30%以下のシェアという基準になっており(第12条)、工商総局側に合わせたように見えますが、水平合意の場合の代替技術が4つ以上存在するという選択的基準が今回の統合版では3つ目の基準となっており(水平、それ以外に共通の基準?)、原案から微妙な違いを見せています。

ただ、全体的な構成のうち、統合版前半は発展改革委原案に近いように見えます(例えば、関連市場画定の章がない、独占合意の章で価格協定等ハードコアカルテルの説明がない等)。また、市場画定に関し両案でズレを見せていた技術革新市場への言及(工商総局原案第11条)については、発展改革委原案の言及なしに落ち着いています。他方、統合版後半、第5章で知的財産権が関わる特定場面を取り上げている構成は、工商総局原案(第6章)と同じですが、中身は例えば、標準化は独占合意の章でのみ取り上げる、(発展改革委原案で支配的地位の濫用類型として挙がっていた)差止命令を取り込むなど必ずしも工商総局原案とは一致していません。

その他、細かいところは追って分析しようと思います。

カテゴリー: 独占禁止法, 知的財産権, 中国 | コメントをどうぞ

上海市物価局、GM販売子会社に対し約2億元の制裁金

明けましておめでとうございます。昨年末の2016年12月19日、上海市物価局は上汽通用汽車有限公司(上海汽車とGMの合弁会社)の販売子会社による再販売価格維持に関し、約2億元の制裁金を課す決定を下しました(同年12月23日公表)。

自動車の再販売価格維持に関しては、既に2014年にアウディ、ベンツ、クライスラーが、また2015年に東風日産が、それぞれ行政制裁金を課されています。上海市物価局の案件としては、クライスラーに次いで2件目となります。自動車産業は、国家発展改革委員会が、特に独禁法ガイドライン案(2016年3月23日に意見募集稿を公開、再販売価格維持についても言及)を起草中で、法運用の重点領域と位置づけられています。

また、自動車以外でも、白酒、粉ミルク、眼鏡用レンズ及びコンタクトレンズ家電医療機器といった商品の再販売価格維持に制裁金が課されています。いずれも国民生活直結型の商品である点が注目です。

本件処分の正式公表前、12月14日付けChina Dailyが「近々、米国自動車会社を独禁法違反で処罰する予定」との記事(国家発展改革委員会価格監督検査及び独占禁止局の張漢東局長への単独インタヴュー)を掲載しました。そのタイミングと米国と国名を明示したやり方から、12月2日、トランプ次期大統領が蔡英文総統と電話協議を行ったことに対する牽制ではとの報道も見られました(「米社メーカーに制裁示唆 トランプ政策中国が瀬踏み」日本経済新聞2016年12月16日朝刊5面、「上海市、GMに罰金34億円 独禁法違反で 米中が報復合戦」日本経済新聞2016年12月24日朝刊7面)。

しかし、本件処罰決定書によれば、2016年4月25日から同年11月18日まで調査したとあるため、蔡総統との電話協議はおろか、トランプ次期大統領の当選判明(2016年11月9日)の半年以上前から調査した結果が、このタイミングで出たに過ぎません。さらに、上記China Dailyの取材を受けた張局長と同じ価格監督検査及び独占禁止局の蘆延純副局長は、すでに2016年11月26日時点で、アウディ、ベンツ、クライスラー、東風日産らに加え、年末までにもう1社処罰するとの見通しを公言していましたし、実際、行政処罰事前告知書が当事会社に送達されたのは同年11月28日です。よって、本件処罰自体は、上記の中国独禁法運用の長期的文脈の中で理解すべきであり、決して短期的な対米牽制的運用とはいえません。

他方、China Dailyの上記記事は、一面のトランプ次期大統領の記事のすぐ横に配置され、米国の自動車メーカーとあえて名指しで予告しており、さらに、その時点では英語版の新聞だけで報道されたとのことですので、トランプ次期大統領に対する牽制手段として掲載されたことはほぼ明らかです。本来、通常の独禁法運用であったに過ぎない処分が、中国政府内部のハイレベルの方針を受け、対米牽制のメッセージとして使われたと理解するのが妥当なところでしょうか。

このような形で外交上の牽制手段として使ってしまうと、中国独禁法はやっぱり内外差別的に、不公平に運用されているとのイメージが固定化されてしまうのではと懸念します。

カテゴリー: 独占禁止法, 米国, 中国 | タグ: , , , , | コメントをどうぞ

工商総局、テトラパックの市場支配的地位濫用に対し約6.7億元(約106億円)の制裁金

本日、夜のニュース番組を見ていたら、「工商総局がテトラパック(中国名「利楽」)に対し・・・」と出たので、慌てて工商総局のウェブサイトを確認したところ、出ていました。

工商总局依法对利乐滥用市场支配地位案作出行政处罚

竞争执法公告2016年10号 利乐滥用市场支配地位案

テトラパックは、グローバル市場において、液体食品包装設備、技術サービス、包装材料の提供及び液体食品生産企業に対し生産ラインの設計提案を世界中で行う大型多国籍企業であるところ、第三者からの申告に基づき、2012年から4年余り、調査を行った結果、工商総局は以下のように認定しています。

1)2009~2013年の期間、テトラパックは中国大陸液体食品無菌紙パック設備市場(設備市場)、無菌紙パック設備の技術サービス市場(技術サービス市場)及び無菌紙パック包装材料市場(包装材料市場)の3つの市場において、それぞれ市場支配的地位を有する。

2)同期間、テトラパックは、

①設備市場及び技術サービス市場における市場支配的地位を利用して、設備及び技術サービスの提供過程において、包装材料を抱き合わせした。

②包装材料市場における市場支配的地位を利用して、原料紙供給業者の競争者との協力の制限と原料紙供給業者の関連技術情報の使用制限を通じて、原料紙供給業者の競争者に対する原料紙の提供を妨害した。

③包装材料市場における市場支配的地位を利用して、遡及的な累計販売量リベート及び個別的な購入量目標リベート等競争を排除又は制限する忠誠度リベートを実施し、包装材料市場の公正競争を妨害した。

3)以上のテトラパックの行為は、中国独占禁止法第17条第1項第4号(正当な理由のない排他的取引等取引制限)、第5号(正当な理由のない抱き合わせ)及び第7号(その他市場支配的地位の濫用行為)に該当する。

工商総局は、テトラパックに対し、これらの3つの行為の停止を命ずるとともに、約6億6772万人民元(本日レート1元=15.875円換算で約106億円)の行政制裁金を課しています。

テトラパックは、それこそ中国独占禁止法ができる前から、中国市場で反競争的慣行をやっているとやり玉に挙げられていた企業で、実際に、法が施行されてから、工商総局が調査を行っていると報道されていました。ついこないだも、テトラパックとマイクロソフトは、どうなったんですかね、と知り合いと話したばかりだったので、とうとう来たかという印象です。

これまで工商総局は、外国の大企業相手の法執行決定例がなく、価格独占行為を担当する発展改革委に大分、水を空けられていたのですが、本件によりその存在感を一気に高めた印象です。

本件決定に関し、中国独禁法の適用について興味深い点として、1)忠誠度リベートは、17条1項4号の排他的取引ではなく、17条1項7号のその他の濫用行為に分類されている点、2)リベートは価格に関係するが、非価格独占行為を担当する工商総局が、他の非価格独占行為と一括して処理している点、を挙げることができます。

とりあえず本日は、速報のみとします。処分決定書(2016年11月9日付)は47頁に及び、これまで公表された行政処分決定書の中では最長だと思います。欧州のテトラパック事件、日本のインテル事件等との類似性を含め、追って詳しく分析しようと思います。

当日訂正注:上記3)で、17条1項4号(抱き合わせ)としていましたが、正しくは17条1項5号でしたので、訂正しました。また、下から2段落目の1)「忠誠度リベートは、17条1項4号の抱き合わせではなく」との箇所は、「忠誠度リベートは、17条1項4号の排他的取引ではなく」に訂正しました。

カテゴリー: 独占禁止法, 中国 | タグ: , , , | コメントをどうぞ

神戸大学トップローヤーズ・プログラム(平成29年度出願者募集中)

神戸大学大学院法学研究科は平成28年度から高度専門法曹コース(トップローヤーズ・プログラム、「TLP」と略称)をスタートしました。主に若手中堅の弁護士向けの博士課程後期課程で、講師陣に神戸大学教員に加え、著名実務家(文字通り「トップローヤーズ」)に参画してもらっています。すでに、平成28年度、租税法、競争法、知的財産法及び国際商事仲裁の4つの専攻分野で開始し、講義も前期から始まっています。平成29年度は、労働法及び新興国法務の2つの専攻分野を新設し、また、知的財産法に新科目としてエンターテイメント法実務を加えます。

このうち新興国法務(2頁目と8頁目参照)では、1)中国法務Ⅰ、2)中国法務Ⅱ及び3)アジア法務の3科目を開講します。大江橋法律事務所の中国法務専門家アンダーソン・毛利・友常法律実務所の中国法務及びアジア法務専門家が講師陣に加わって下さいます。川島は、このうち、2)中国法務Ⅱで中国独占禁止法に関する講義を担当するほか、論文指導を担当します。

TLPの概要(専攻分野・科目・講師陣)や募集要項については以下をご参照ください。

神戸大学東京オフィス(JR有楽町駅すぐ)や神戸大学梅田インテリジェントラボラトリ(阪急・梅田駅すぐ)での受講も可能です。

ご関心の方の問い合わせ及び出願をお待ちしております。

TLPウェブサイト  入試情報(問い合わせ先情報含む)
TLPの概要(平成29年度版)
平成29年度 高度専門法曹コース(トップローヤーズ・プログラム)学生募集要項

カテゴリー: ベトナム, マレーシア, 独占禁止法, 知的財産権, 神戸大学, 日本, 中国 | タグ: | コメントをどうぞ

(仮訳)世界貿易機関の貿易救済紛争裁決の執行に関する暫定規則

世界貿易機関の貿易救済紛争裁決の執行に関する暫定規則」(中華人民共和国商務部令2013年第2号、2013年7月29日公布)の日本語訳を投稿します(原文はこちら→商务部令2013年第2号 《执行世界贸易组织贸易救济争端裁决暂行规则》)。

国際商事法務で連載中の「WTOアンチダンピング等最新判例解説」のうち、2016年11月号に掲載予定のWTO紛争解決了解21.3条(c)に基づく仲裁に関する解説の中で、本規則を参照する必要があったため、このような形で仮訳を掲載しました。

すいません、中国独禁法とは関係ないし、2013年の規則なので速報性もないですが、上記のような事情でご容赦ください。

カテゴリー: WTO, 中国 | タグ: , , , | コメントをどうぞ

10月より上海交通大学に滞在しています

20161013_100639-2

またもやブログの更新が久しぶりになってしまいました。この間、中国独禁法だけでなく私自身にも大きな動きがありました。まずは自分のことから。

すでに雑誌『公正取引』9月号の「国内だより」に書かせてもらったので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、この10月より上海交通大学凱原法学院に訪問学者(Visiting Scholar)として滞在しております。このブログでも登場した王先林先生の所属されている法学院で、競争法の研究センターとしてトップクラスです(同竞争法律与政策研究中心)。

すでに研究室で落ち着いて仕事ができるようになりましたが、こちらに入ってからスマホやWifiの契約、銀行口座開設等々、土台作りでてんやわんやでした。スマホは中国聯通、Wifiは中国電信、銀行は中国工商銀行といずれも国有会社が契約相手となり、中国に来ていることを体感させられます(2016年10月23日追記、そうそう初めて電気料金を払った先も国家電網=State Gridの上海市電力公司でした)。

10月中旬に入ると金木犀(中国語だと桂花)が香り始め、気温も寒すぎず暑すぎず過ごしやすく、とてもいい感じです。

滞在中は、今までとは違い、外側からでなく内側から見た中国独禁法についてレポートできればと思っています。

カテゴリー: 独占禁止法, 国有企業, 中国 | タグ: , , , | コメントをどうぞ

工商総局、知的財産権濫用ガイドライン(意見募集稿)を公表

中国国家工商行政管理総局は、2016年2月4日、「知的財産権濫用に関する独占禁止法執行ガイドライン(国家工商総局第七稿)」を公表しました。意見募集期間が同月23日までとされています。

1月29日開催の公正取引委員会競争政策研究センター第39回公開セミナーでは、中国における「独占禁止法と知的財産権」問題に関する第一人者の王先林・上海交通大学特聘教授を講師にお迎えし、「中国独占禁止法による知的財産権濫用規制の新たな展開」と題して講演してもらいました。同講演に対する私のコメントの中では、2015年12月末の発展改革委知的財産権濫用ガイドライン案と2015年4月の工商総局知的財産権濫用規定の間でセーフハーバーに関し基準にズレがある点を指摘しました。工商総局側は2015年4月の知的財産権濫用規定において、水平協定の場合、合計市場シェアが20%以内、又は他に代替的技術が少なくとも4つ存在すること、垂直協定の場合、それぞれ30%以内、又は他に代替的技術が少なくとも3つ存在することという基準を設定していましたが(第5条)、今回公表された工商総局側の意見募集稿においても、この基準はそのまま残っています(第21条)。他方、発展改革委ガイドライン案では、水平協定の場合、合計市場シェアが15%以内、垂直協定の場合、それぞれ25%以内というセーフハーバー基準が設定されているため、今後、独占禁止委員会に両案が提出されて以降、調整が難航するのではと予測されます(王先生は工商総局案が妥当、既に制定済みの規定を変更するのは相当特別な理由が必要とのご意見でした。)。

1つ前の投稿で、3当局がそれぞれガイドラインを起草している状況についてお伝えしましたが、王先生のご講演によるとさらに国家知的財産権局も(独占禁止法執行機関ではないが)独自案を起草しているそうです。私のコメントの中で、2009年に工商総局主導で始まった起草作業が、なぜ2015年段階で3当局並行起草方式に変更されたのか質問したところ、当初は発展改革委も知的財産権濫用規制にあまり関心を持っていなかったが、最近は(クアルコム事件等もあり)その重要性に気づいて、自分に起草作業の主導権を与えろと主張したため、3当局並行起草方式に落ち着いたとのご説明でした。

商務部の意見募集稿がまだのようですので、今後、三者出揃った上で、独占禁止委員会において調整統合し、2016年6月頃の制定版公布を目指すようです。

取り急ぎ。

カテゴリー: 独占禁止法, 知的財産権, 中国 | タグ: , , , , | 1件のコメント

発展改革委、知的財産権濫用に関する独占禁止ガイドライン(意見募集稿)を公表

中国国家発展改革委員会は、2015年12月31日、「知的財産権濫用に関する独占禁止ガイドライン(意見募集稿)」を公表しました。意見募集期間は2016年1月1日から同月20日までとなっています。

発展改革委が意見募集稿を公表しましたが、ガイドラインの名義は国務院独占禁止委員会となっています。また、「四. 知的財産権に係る企業結合」は省略されており、この部分は商務部が起草を担当していることが分かります。他方、2015年12月11日、国家工商行政管理総局側でも「知的財産権を濫用し競争を排除し、又は制限する行為の禁止に関する独占禁止ガイドライン(第六稿)」に関する座談会を開催したとあります。

発展改革委と工商総局のガイドライン案の名前が微妙にずれているため、これらが1つの動きなのか分かりにくいですが、2015年5月、独占禁止委員会弁公室の調整の下で、三執行当局がそれぞれ担当分野に関するガイドライン案の作成を開始し、2016年1月末までに同弁公室に原案を提出することになっているとのことです。発展改革委の1月20日意見募集締切というのも、この1月末に合わせた動きと言えます。よって、三執行当局すべてに適用される一本のガイドラインが独占禁止委員会名義で制定される運びです。なお、工商総局は、2015年5月の動きのずっと前の2009年に上記の名前のガイドライン案の起草作業に着手したので、現在もその名前で起草作業を継続しています。

以上も含め、中国における知的財産権濫用に関する独禁法規制の最新動向については、公正取引委員会競争政策研究センター(CPRC)が、1月29日(金)、上海交通大学の王先林教授を招へいして、公開セミナーを開催する予定です。王教授は、国務院独占禁止委員会専門家諮問委員会メンバーで、中国における「独占禁止法と知的財産権」問題に関する第一人者でいらっしゃいます。川島は同セミナーでコメンテイターを務めます。

さらに、2月1日(月)、神戸大学の科研費研究プロジェクトとCPRCの共催で、同教授及び島並良・神戸大学教授の両氏を講師にお迎えして、国際シンポジウム「独占禁止法と知的財産法の交錯―日中比較の観点から―」を開催します(13:30~16:30予定、於神戸大学国際開発研究棟1階大会議室、事前登録制)。こちらでは、泉水文雄・神戸大学教授が司会を、和久井理子・大阪市立大学特任教授・立教大学特任教授及び川島がコメンテーターをそれぞれ務めます。

神戸大学側のシンポへの参加希望者は、川島までメール送信し、事前登録をお願いいたします(お名前、ご所属をお送り下さい。)。定員(60名程度)になり次第、締め切らせて頂きます。

カテゴリー: 独占禁止法, 知的財産権, 神戸大学, 日本, 中国 | タグ: , , , , , , | コメントをどうぞ