2022年7月21日、中国インターネット情報弁公室は、ネット配車アプリを運営する滴滴(DiDi)がネットワーク安全法、データ安全法、個人情報保護法等に違反したとして、80.26億元(1元=20.48円のレート換算で約1644億円)の行政制裁金を課しました。取締役会会長兼CEOの程維氏及び総裁の柳青氏にもそれぞれ100万元(約2048万円)の行政制裁金が課されています(決定公告)。
同決定に関する記者質問への回答(同日付)では、どのような違法行為があったのか、どうしてこのような高額な制裁金が課されたのか説明されています。
違反行為として主に8つに分類されますが、例えば、
1.ユーザーのスマホのアルバム内の写真を違法に収集した(1196.39万件)。
2.ユーザーのクリップボードやアプリリストの情報を過度に収集した(83.23億件)。
3.乗客の顔識別情報を過度に収集した(1.07億件)。
4.乗客が運転手のサービス評価時等の正確な位置情報を過度に収集した(1.67億件)
5.運転手の学歴情報を過度に収集した(14.29万件)
6.乗客に明確に告知せずに乗客の利用意図情報を収集した(539.76億件)
等が認定されています。
また、高額な制裁金については、今回の滴滴に対するネットワーク安全審査関連の行政処罰が、一般の行政処罰と異なり、特殊性があるとして、以下の5点を挙げ、これらを総合考慮した結果だと説明しています。
1.滴滴が関連法令や監督管理部門の要求に沿ってネットワーク安全、データ安全及び個人情報保護義務を履行せず、国家ネットワーク安全及びデータ安全を顧みることなく、両安全に重大なリスクをもたらし、監督管理部門が是正を命じた状況においても、全面的に改善しせず、違法行為の性質が極めて悪劣である。
2.違法行為の持続期間の観点からは、滴滴の違法行為は早くは2015年6月に始まり、現在に至るまで持続し、7年に達する。2017年6月施行のネットワーク安全法、2021年9月施行のデータ安全法及び2021年11月施行の個人情報保護法に持続的に違反した。
3.違法行為の危害の観点からは、滴滴は違法手段を通じユーザーのクリップボード情報やアルバム内の写真情報等を収集し、ユーザーのプライバシー、個人情報権益を厳重に侵害した。
4.違法に処理した個人情報量の観点からは、違法処理個人情報は647.09億件と数量は巨大であり、その中には顔識別情報、正確な位置情報、身分証番号等の多種類のセンシティブ個人情報を含む。
5.個人情報の違法処理の状況の観点からは、滴滴の違法行為は、多くのアプリにわたり、個人情報の過度収集、センシティブ個人情報の強制的な収集、アプリの頻繁な権限取得要求、個人情報処理告知義務の不履行、ネットワーク安全・データ安全保護義務の不履行等多数の状況を含む。(以上、太字は投稿者の強調)
さらに、
「これ以前に、ネットワーク安全審査により、滴滴が国家安全に厳重な影響を及ぼすデータ処理活動を行っていること及び監督管理部門の明確な要求に従うことを拒否し、面従腹背の態度で、監督管理等その他の違法問題を悪意をもって避けたことが、さらに明らかとなっている。滴滴の違法運営は国家のキーとなる情報インフラ安全とデータ安全に厳重な安全リスクをもたらした。国家安全に関わるため、法に従い公開しない」
とも説明されています。政府部門の要求拒否、面従腹背等の経緯は本ブログ2021年7月23日投稿をご覧ください。
上記投稿では、ネットワーク安全法と独禁法の制裁に関する根拠規定の違いから、アリババの独禁法違反事件のような高額な制裁金(約182億元)はないだろうと予測したのですが、そこまで達しなかったにしても、予想を大幅に超えた高額な制裁金となりました。どのように違法行為がカウントされ、どう計算されたのか上記の記者質問への回答でも詳細不明ですが、上記の説明中の647億件の違法個人情報処理というのが非常に大きく作用した可能性があります。
他方で、施行が一番最近で違反行為期間が短いはずの個人情報保護法を見ると、個人情報保護違反に関する66条2項で、情状が重い場合、違法所得の没収、かつ5000万元以下又は前年度売上高5%以下の行政制裁金を課すとあります。同じ条文では直接責任を負う主管人員にも10万以上100万元以下の行政制裁金を課すともあります。今回、程CEOや柳総裁に100万元が課されていることを見ると、この66条2項が適用された可能性は高く、前年度売上高5%以下の計算で80億元となった可能性も同様に高くなります。2020年12月期の売上高は1417億元という情報もあるので、これに5%という計算でちょうど70億元程度になります。むしろこの計算シナリオの方がいろいろ説明がつきやすいように思えます(本段落2022年7月22日追加。下記のコメントへの返信も参照のこと)。
すでに当局の指導を受け、2022年5月、滴滴は2021年6月に実施した米国上場を廃止することを決定し(参考:日経新聞2022年5月23記事)、2022年6月に実際に廃止しています。この流れで6月にも滴滴のアプリの新規ユーザー登録の再開の運びとも報道(ロイター2022年6月6日記事)されており、これで滴滴の処分も終わりかと期待していた市場関係者もいたかもしれません。本日の処分は大きなサプライズだったかもしれません。
以上、速報的に投稿しました。