中国商務部、ウエスタンデジタルによる旧日立グローバルストレージ買収を条件付承認

2012年3月2日、中国商務部はウエスタンデジタルによるビビティ(旧日立グローバルストレージ)テクノロジーズの買収を条件付きで承認する決定を公告しました(商務部公告2012年第9号)。この結果、企業結合審査決定は2008年8月1日の法施行以来、合計13件(うち禁止決定が1件、条件付承認決定が12件)となりました。

本決定は、2011年12月12日のシーゲイトテクノロジーによるサムスン電子ハードディスク駆動装置(HDD)事業譲受けの条件付承認決定(商務部公告2011年第90号)と同一市場における企業結合が審査対象となっており、後者と合わせて分析する必要があります。付加された条件(被買収事業の独立性継続)もシーゲイト決定と非常によく似たものです(但し、本決定は最低2年間、シーゲイト決定は最低1年間義務付け。その後、同条件の取消申請が可能)。2011年年末、中国商務部独占禁止局の尚明局長は、記者の質問に答えて、ウエスタンデジタルについても同様の条件が付加される可能性があることを示唆していましたが、その予告通りとなりました(本ブログ2011年12月29日投稿参照)。

この2つの企業結合については、日本の公正取引委員会が既に2011年12月28日、シーゲイト側を無条件で承認したのに対し、ウエスタンデジタル側を条件付(3.5インチPC・家電向けHDD事業(市場シェア10%分)の独立の第三者への売却)で承認した旨公表しています(2011年12月28日付報道発表)。日本の決定は、欧州委員会の決定(シーゲイトに関する2011年10月19日付け Press Release及びウエスタンデジタルに関する同年11月23日Press Release)と歩調を合わせるものでしたが、これに対し中国は両取引のいずれにも条件を付加しているので、日欧当局とは異なる処理をしたこととなります。
(2012年3月8日追記 2012年3月5日、米国連邦取引委員会(FTC)が日欧当局と同様な売却条件を付してウエスタンデジタルによる旧日立GSTの買収を承認しました。シーゲイトによるサムスン電子HDD事業買収については、2011年12月7日にClosing letter発給済み(シーゲイト宛)(サムスン電子宛))

この日欧と中国の間で同一案件の取扱いにズレが生じた背景については、すでに2月24日(金)に開催されたある研究会において、シーゲイト事業譲受け案件に即した形で、私なりに分析を加えてみました。1つ目は、寡占市場における協調効果に対する中国当局の姿勢が日欧よりも厳しいものである可能性、2つ目は、それとも関係しますが、需要者からの競争圧力について日欧が比較的、積極的に評価したのに対し、中国がその圧力の存在を否定したという個別考慮要因の評価の違い、です。後者については、ウエスタンデジタルのHDD生産設備がタイの洪水の直撃を受け、その生産の75%が停止し、世界的にHDD在庫が減少した結果、10月に価格が急上昇し、その上昇をPCメーカーが吸収し、(中国PCユーザーを含む)最終消費者にそれを転嫁した事実(=需要者側の競争圧力の不存在を示唆?)を中国商務部側が重視したのに対し、欧州委員会の場合、少なくともシーゲイト事業譲受けに関する審査では、この事実を考慮することは審査タイミングからして不可能であったという、両者の審査のタイミングのズレが大きく作用している可能性が高い、と指摘しました。

いずれにしても本決定及びシーゲイト事業譲受けに関する決定は、パナソニック及び三洋電機統合の審査決定(商務部公告2009年第82号)(本ブログ2009年11月1日投稿も参照)に引き続き、中国独占禁止法による企業結合審査が国際的な企業結合実務の大きな攪乱要因となることを極めて如実に示すもので、より一層の分析を加える価値のある事例といってよいでしょう。逆に、両決定は、中国独占禁止当局を国際的情報交換・調査協力のネットワークに組み入れていくことの重要性を極めて具体的に示しているとの評価も可能でしょう。

これ以外に、シーゲイト(2011年5月19日届出)よりも先に届出された本件結合の審査期間が大幅に長期化(当初届出2011年4月2日、最終決定2012年3月2日で11か月)したことについて、本件公告は、企業結合の再届出がなされたためと説明しています。再届出に関する立件(2011年11月7日)のタイミングから判断すれば、欧州委員会に対する問題解消措置案の提出を受け買収計画に変更が生じたために再届出がされた可能性が高いですが、その辺り必ずしも定かではありません。

以上、速報でした。

カテゴリー: 独占禁止法, 米国, EU, 日本, 中国 タグ: , , , , , パーマリンク

コメントを残す